緑─マットピスタチオマット金楕円

「ピスタチオって、ちょっと前に流行ったわよね?」
彼女はそう言って、カフェのパフェを指さした。
僕には、何が流行っていて何が終わったのか、正直さっぱり分からない。
でも、彼女がそう言う時の、少し得意げな笑い方が好きだった。

彼女は、流行にうるさい。
スニーカーの新作も、映画のサントラも、街のパン屋の限定クロワッサンも、よく知っている。
僕はその横で、ただ相槌を打ちながらコーヒーを飲む。
彼女の話が分からなくても、会話はちゃんと続く。
それが、心地いい。

「君はどう思う?」と聞かれるたびに、僕は正直に「分かんないな」と答える。
彼女は笑って、「誠実ね」と言う。
おそらく褒めてはいない。けど、それでも機嫌がいい。

僕らの関係は、半分ずつ違っていて、でもきちんと丸い。
たとえば、僕が無音で過ごす夜に、彼女はイヤホンをして音楽を聴く。
僕が休日に本を読むと、彼女は街に出かける。
それぞれの世界を持ったまま、ちゃんと隣り合っている。

帰り際、彼女が言った。
「あなたって、まるでピスタチオね。外は地味なのに、中がちゃんときれいな色してる」
僕は思わず吹き出して、「褒めてるの?」と聞いた。
「もちろん」
彼女は目を細めて笑った。

違う形のまま、噛み合う。
それで十分、僕らはうまくいっている。
まるで緑と白が並んでひとつになる、小さなボタンみたいに。

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