緑─金蛇腹オリーブ玉

ロンドンの空は、いつだって少し灰色だ。
けれどあの日、駅前のカフェに差し込んだ午後の光は、不思議なほど温かかった。

彼女は、伸び悩む女優だった。
オーディションに落ち続け、マネージャーにも愛想を尽かされ、それでも毎朝鏡の前で笑顔を作っていた。
「夢って、こんなに長持ちするものかしら」と、ため息交じりに言ったとき——
隣の席の青年が、コーヒーのカップを片手に顔を上げた。

オリーブ色の瞳だった。
光の中で、金でも緑でもない、不思議な優しさを含んでいた。

「僕が君を大女優にする」
それが彼の最初の言葉。
彼女は思わず笑って、「映画のセリフみたいね」と返した。
だけど、その瞳の真っ直ぐさに、冗談の続きが喉に詰まった。

彼は小さな劇場で働く照明スタッフだった。
自分の舞台も、脚本も、まだ持っていない。
それでも彼は毎晩、ステージの光を整えながら、彼女が立つ未来を思い描いていた。

「本気なの?」と問う彼女に、彼はただ「もちろん」と笑った。
その笑顔の中に、彼女は久しぶりに信じられる何かを見つけた。

灰色の街の片隅で、二人の夢は小さく灯った。
それはまだ儚い光だったけれど、
いつかこの世界を照らすほどの強さを——きっと、秘めていた。

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