赤いマフラーを選んだのは、たぶん勢いだった。
彼女の好きな色を聞いたわけでもない。けれど、店先でその赤を見た瞬間に、「あ、これを巻いてる顔が見たい」と思ってしまったのだ。
クリスマスの少し前、街はやたらときらきらしていて、冷たい空気のくせにどこか甘ったるい匂いがしていた。マフラーを渡した時、彼女は少しだけ目を丸くして、すぐ笑った。
「ちょっと派手じゃない?」
言葉とは裏腹に、首元に巻いたその瞬間、頬がほんのり赤く染まっていくのがわかった。
マフラーの端には、金の輪が繋がったようなボタンを縫い付けてある。二つの輪が寄り添って、離れない。
「これ、かわいいね。手、繋いでるみたい」
そう言って、彼女は本当に僕の手を取った。指先は少し冷たくて、でもすぐにあたたまっていく。
帰り道、彼女はわざと風にマフラーをなびかせながら、
「赤って、勇気出るね」
と笑った。その笑顔が、街灯の下で少し眩しく見えた。
その夜、家に帰ってから、彼女の笑い声が何度も頭の中で再生された。赤いマフラーの先がふわりと揺れて、ボタンが月の光を跳ね返す。
あの金の輪は、きっと手を繋ぐだけじゃなくて、時間を繋いでくれているんだと思う。
たぶん、彼女と僕の“これから”を、あの赤が包んでくれている。


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