放課後の校舎は、光の残り香が漂っていた。
生徒会室の窓から差し込む陽が、赤い机の上を斜めに撫でていく。
その光の中に、私は立っている。
誰もいない部屋で、ひとり、今日の議事録をまとめながら。
「会長ってさ、眩しいよね」
去年の文化祭のとき、後輩にそう言われた。
褒め言葉のつもりだったのかもしれない。
でもその言葉が、胸の奥にちくりと残った。
眩しさは、光だけでは成り立たない。
それを照らすための影が、どこかに必ずある。
四つの赤い菱のように、目立たない場所で支える人たちがいる。
私はその上に、偶然、金色の花として飾られているだけだ。
ガラス越しの空は、透明で、少し冷たかった。
窓に映る自分の姿が、誰かの期待を映した幻のように見える。
「堂々としていなきゃ」と、いつも思う。
でも本当は、透き通った心でいたい。飾りではなく、芯で光る自分で。
机の上のペンを置くと、かすかに風が吹いた。
カーテンが揺れ、ボタンのように留められた時間が少し外れる。
私は立ち上がり、胸元の校章を指でなぞった。
金色の桜が、夕日にきらめく。
――私は今日も、誰かの目に“輝いて”見えるだろう。
でもそれでいい。
この輝きが、誰かの勇気になるなら。
私が光でいる間、あの四つの赤い影を忘れないでいよう。

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