赤─金縁赤艶玉

「ほっぺが真っ赤だね、まるで林檎みたいだ」
オオカミは笑った。
「ほめても何も出ないよ」
赤ずきんは、籠をぎゅっと持ち直して言う。

森の中の空気はひんやりして、昼でも影が深い。
木漏れ日の下、彼女の頬が陽を受けて光った。確かに林檎のようだった。

「ねえ、知ってる?」と赤ずきん。
「美味しい林檎の見分け方。検索したの。皮にツヤがあって、軸が太くて、重みがあるやつが甘いんだって」
「ふむ、まるで自分のことを言ってるようだな」
「そんなわけないでしょ」
でもその声は、少しだけ照れていた。

オオカミは、赤ずきんの籠を覗き込む。
中にはいくつもの林檎が並び、その中でひとつ、やけに艶やかな実があった。
「これ、もらっても?」
「……おばあさんの分、残しておいてね」
赤ずきんがそう言うと、オオカミは一瞬だけ、彼女を見つめた。
その瞳の奥に、何か小さな迷いが沈んでいた。

噛んだ瞬間、林檎はぱきりと音を立てた。甘くて、少し酸っぱかった。
「悪くない味だ」
「でしょ?」と赤ずきんは笑う。頬の赤が、さらに濃くなった。

林檎の皮のように、世界は薄く光を弾く。
童話の結末なんてどうでもよかった。
その日、森の奥でオオカミと赤ずきんが並んで座り、
同じ林檎を分け合って食べたという話だけが、静かに残っている。

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