「水色のランドセルって、変わってるわね」
その声は、小さく笑うような調子だった。
私は思わずそちらを見た。ベンチに座る母親たちが、手で口を隠してヒソヒソと話している。
視線の先、校門をくぐる女の子。
背中に揺れるのは、空の色みたいに澄んだランドセル。
陽の光を受けてきらきら光るそれは、まるで夏のプールの水面のようで、目が離せなかった。
「うちの子のクラスにもね、青いランドセルの子がいるの。最初は浮いちゃうかなって思ったけど、意外とみんな気にしてないみたい」
隣の母親がそう言って笑った。
その言葉に、私は少し救われた気がした。
校庭の隅では、子どもたちが集まっている。
ランドセルの色なんて気にする様子もなく、笑いながら鬼ごっこをしていた。
その水色のランドセルの子は、鬼を見事にかわして、風のように走っていく。
その姿を見て、私はふと思った。
私たち大人が「普通」を気にして、勝手に色を制限しているだけなんだ。
子どもたちは、そんなものとうに超えている。
彼女のランドセルは、ただの水色じゃない。
世界を少し広げてくれる青。
その輝きを見つめながら、私は自分の胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
世界は、大人が思っているよりも、ずっと自由で優しい。
そう気づかせてくれたのは、あの小さな背中だった。


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